AIの答えがイマイチなのは、あなたの"問い"が不良品だからかもしれない − 40代管理職のAI活用術 −
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AIに「いい感じにまとめておいて」と頼んだことが、ありませんか。
返ってきたのは、たしかに整ってはいる。でも、当たり障りのない総論で、肝心なところが入っていない。「うーん、これじゃないんだよな」と思いながら、そっとタブを閉じる。
最初の頃、僕はこれを「AIはまだこんなものか」と片付けていました。
でも、しばらく使って、はっきり気づきました。微妙だったのは、AIの答えではありません。僕の問いのほうでした。
僕は設計の仕事を長くやってきました。何かを測定するとき、設計の現場では、測る前に必ず「どこまでならOKか」を先に決めます。その基準がなければ、出てきた数字が良いのか悪いのか、判断できないからです。それを当たり前にやってきたはずの僕が、AIにだけは、その基準を決めずに丸投げしていたのです。
ナギ
AIの答えの質は、あなたの問いの質を超えない
結論から言います。AIから良い答えが返ってこないとき、原因はたいてい、AIではなく問いのほうにあります。
僕はこれを「不良品の問い」と呼んでいます。何を「良し」とするかを決めないまま投げた、合否の基準を持たない問いのことです。
ここで一つ、誤解を先に外しておきます。これは「上司の曖昧な指示を、自分が読み解く」という話ではありません。向きが逆です。自分から、AIや部下へ”出す”問いの話です。受け取る側でなく、投げる側の精度。今日はそこだけを見ていきます。
そして、もう一度言います。これはプロンプト術の記事ではありません。小手先の言い回しを10個覚える話ではなく、「投げる前に、何を決めておくか」という、もっと手前の話です。
測る前に、合格ラインを決める
設計や評価の現場には、徹底された鉄則があります。それは、測定する前に「合格ライン」を先に決める、ということです。
何かを測るとき、「どこまでならOKで、どこからがNGか」を先に決めておく。設計の世界では、これを規格値と呼びます。規格値のないまま測定しても、出てきた数字を「良い」とも「悪い」とも言えません。ただの数字で終わってしまう。
規格値を決めずに測定する人はいない。なのに僕たちは、AIには規格値を決めずに問いを投げている。
AIに「いい感じにまとめて」と投げるのは、合格ラインを決めずに測定ボタンを押すのと、まったく同じです。出てくるのは「それっぽい何か」。でも、自分の中に合否の基準がないから、良いとも悪いとも判断できない。だから「なんか違う」としか言えないのです。
これは製造業だけの話ではありません。
📒 "合格ライン"は、どの仕事にもある
- 営業:「いい提案資料を作って」の"いい"=誰向け・何を訴える・何枚、を決めずに投げていないか
- 企画:「面白い案を出して」の"面白い"=誰が・どんな場面で喜ぶか、の基準があるか
- 事務:「分かりやすくまとめて」の"分かりやすい"=誰が読んで何が分かればOKか
どの仕事にも、合格ラインはあります。ただ、ふだんは口に出していないだけです。AIは、その「口に出していない基準」を、容赦なく見えるようにしてくれます。
「不良品の問い」とは、ゴールを決めていない問いのこと
では、良い問いの核は何か。たった一つです。何を「良し」とするか、というゴールを先に決めること。これだけです。
制約や背景や形式も大事ですが、それは後の話です。まず、ゴール。「この問いに、どんな答えが返ってきたら成功なのか」を、自分が先に握っているか。それが握れていない問いが、不良品の問いです。
以前、依頼の前に「何を良しとするか」を先に決める道具について書いたことがあります(インパクトフィルター使い方)。根っこは、それとまったく同じです。AIが相手でも、人が相手でも、変わりません。
正直に言うと、僕自身がこれを、長いあいだ分かっていませんでした。
若い頃、部下に「これ、よろしく」とだけ言って渡したことがあります。 数日後に確認したら、まったく違うものが出てきました。 当時の僕は、本気で「なんで分かってくれないんだ」と思っていました。 でも今振り返ると、一番分かっていなかったのは、僕のほうでした。 一番曖昧だったのは、部下の理解力ではなく、僕の指示だったんです。
ミライ
曖昧な指示で部下を困らせる人は、同じやり方でAIも困らせている
ここが、この記事で一番大事なところです。
結論を先に言います。部下マネジメントとAI活用は、同じ一つの力に行き着きます。それが、言語化です。曖昧な指示で部下を困らせてきた人は、たいてい同じやり方で、AIのことも困らせています。
ただ、ここに見落とされがちな落とし穴があります。実は、AIのほうが危険なのです。
なぜ、AIのほうが危険なのか
同じ「いい感じにまとめて」という不良品の問いを投げたとき、人間とAIでは、返ってくる反応がまったく違います。そして、その違いこそが、落とし穴の正体です。
具体的に見てみます。
AIに頼んだ場合 自分「いい感じにまとめて」 AI「承知しました」(→それっぽい資料が、即座に完成する) 自分「…なんか、違う」
部下に頼んだ場合 自分「いい感じにまとめて」 部下「何を重視しますか? 誰向けですか? 何枚くらいですか?」 自分「あ……そこ、決めてなかった」
同じ不良品の問いなのに、起きることが正反対です。
部下は、立ち止まって聞き返してくれます。その瞬間、こちらは「自分が何も決めていなかった」と気づける。つまり、部下の質問は、僕の問いの不良を見つけてくれる検査工程なのです。
一方、AIは止まりません。曖昧なままでも、それらしい答えを、しかも一瞬で返してくる。だから、こちらは「不良品の問いを投げた」ことに、気づけない。
📒 同じ"不良品の問い"への、反応の違い
- 人間(部下):止まって聞き返す → こちらが「決めていなかった」と気づける(安全)
- AI:黙って、それらしい答えを即・完成 → 後で「なんか違う」と気づく(危険)
ここで、こう思った人がいるかもしれません。「AIにも『分からなければ聞き返して』と頼めばいいじゃないか」と。
そのとおりです。でも、その一文すら、こちらが先に思いつけなければ出てきません。そして、その一文を思いつける人は、もう問いを設計できている人です。結局、分かれ目は同じところに戻ってきます。
人は曖昧な指示で困る。AIは曖昧な指示で、それらしい答えを返してくる。だから、気づきにくい。
誤解しないでほしいのは、これは能力の話ではない、ということです。頭の良し悪しではなく、やり方の問題です。やり方なら、今日から変えられます。
ナギ
良い問いには、順番がある
では、どう直すか。テクニックを10個覚える必要はありません。覚えるのは、順番だけです。
良い問いは、いつも同じ順番で組み立てられます。
✅ 良い問いの順番
- ① ゴール:何を「良し」とするか(これが一番大事)
- ② 制約:条件(締切・分量・使えるもの)
- ③ 背景:誰向けか・何に使うか
- ④ 出力形式:長さ・形(箇条書き・表・文章)
大事なのは、①のゴールを先に握ることです。ここさえ決まれば、②③④は後から足せます。逆に、①が空っぽのまま②③④をいくら整えても、答えはぼやけたままです。
そして、ここがこの記事の肝なのですが、この順番は、部下への依頼でもまったく同じです。「これのゴールは、こういう状態になること」を最初に渡す。それだけで、部下もAIも、動きが変わります。
明日から試せる一歩
難しく考えなくて大丈夫です。明日から試せる、一番小さな一歩をひとつだけ。
AIに何かを頼むとき、本文の前に、一行だけ足してみてください。「この回答で”良い”とは、◯◯な状態のことです」。たったこれだけで、返ってくる答えが変わります。部下への依頼なら、最後に「これのゴールは◯◯」と一言添える。同じことです。
実際、さっきの「会議をまとめて」も、こう変わります。
不良品の問い:「会議の内容をまとめて」 → 事実は並ぶが、意思決定に必要なポイントが抜ける。
合格ラインのある問い:「来週の役員会で”承認をもらう”ために、論点と決めるべきことを、A4一枚にまとめて」 → ゴールが決まった瞬間、別物のアウトプットになる。
AIの性能が上がったわけではありません。問いの質が上がっただけです。
変えられないものと、今日から変えられるもの
最後に、整理します。
AIの性能は、こちらでは変えられません。部下の性格も、変えられません。でも、自分の問いは、今日から変えられます。だから、ここには希望があります。
以前、AIが資料も要約も作る時代に管理職へ最後まで残るのは「決めて、引き受けること」だ、という話を書きました(AIは、決めてくれない)。あれは”出口”の話です。今日の「問いの設計」は、その手前の”入口”の話になります。
入口がズレていたら、出口でどれだけ頑張っても、苦しくなります。良い決裁の前には、いつも良い問いがある。なのに、多くの人は、出口ばかり気にして、入口を軽く見ています。
AIを使うようになって、僕が一番はっきり気づいたのは、これでした。
問題は、AIの性能ではありませんでした。僕自身の、言語化能力だったんです。
設計の合格ラインも、部下への依頼も、AIへの問いも、結局は同じ一つの力でつながっていました。何を「良し」とするかを、先に言葉にできるか。ただ、それだけのことです。
あなたの次の問いは、不良品でしょうか。それとも、合格ラインのある問いでしょうか。
ナギ
— Calmly. Surely. —
📖 参考書籍|「問いを立てる力」を鍛える2冊
イシューからはじめよ[改訂版]知的生産の「シンプルな本質」
「解くべき問い(イシュー)を、最初に見極める」ことを知的生産の本質として説いた一冊。本記事の"何を良しとするかを先に決める"と完全に重なります。2024年の改訂版では「なぜ今これなのか」が新たに加わり、AI時代の文脈にもつながります。
- 答えを出す前に「解くべき問い」を見極める技術
- "犬の道"を避け、本当に価値のある問いに集中する
- AIに何を問うかを考える、すべての人の土台になる
シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成
AI×データの時代に、人に残る価値は何か。著者の答えは「価値ある問いを立て、未来を構想する力」です。本記事の"問いの設計"を、個人の仕事から社会のスケールまで引き上げて裏打ちしてくれます。視野を一段広げたい40代に。
- AI時代に人がやるのは「問いを立て、意味をデザインすること」
- データ×AIの全体像が、平易な言葉でつかめる
- キャリアの"次の10年"を考える視点が手に入る
🔗 あわせて読みたい
AIを使い始めたばかりで「そもそも何から手をつければ」という方は、「管理職こそAIを使えていない」問題から読むと、入口がつかめます。
「結局、AIに任せたら自分の仕事は何が残るのか」が気になった方は、本記事の”出口”にあたるAIは、決めてくれない(最終決裁の話)へ。依頼の設計そのものをもっと具体的に詰めたい方は、「いい感じに」が消える依頼設計7選が実例集として効きます。
🧭 「問いを設計できる人材」の市場価値を、一度測る
少しだけ、お金と市場の話を。
「何を良しとするかを、先に言葉にできる力」は、AIが進化するほど価値が上がります。だからこそ、その力が今、社外でどう評価されるのかを、一度知っておく価値があります。転職するためではありません。自分の現在地を測る計器を一つ持っておくと、日々の判断もぶれにくくなります。
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