「自分でやった方が早い」の、その先へ 先が見える人ほど手放せない、40代課長の引き算

(更新: ) 著者: ナギ
#管理職 #プレイングマネージャー #40代管理職 #権限委譲 #部下育成 #マネジメント #任せる #チームビルディング
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自分でやった方が早いの、その先へ|先が見える人ほど手放せない、40代課長の引き算

「自分でやった方が早い」。

この言葉が口をついて出るとき、たぶん、それは事実です。だから、まず否定しません。あなたがそう感じるのは、いいかげんに仕事をしてきたからではなく、むしろ真面目に積み上げてきたからです。

ただ、ひとつだけ、問いを置かせてください。

その仕事、来年も自分でやりますか。

この記事は、「だから、もっと任せましょう」という話ではありません。任せた方がいいことは、誰でも頭では分かっています。分かっているのに、手が動いてしまう。その手放せない自分の内側を、現役の40代課長である僕(ナギ)が、一次体験で書きます。

ナギ
きれいごとを並べる気はありません。僕自身、何度も「やっぱり自分でやればよかった」と思った夜があります。その失敗も含めて、正直に書きます。

ナギ

先が見えるから、手放せない

結論から言います。手放せないのは、無能だからではありません。むしろ、先が見えてしまうからです。

プレイヤーとしての経験が長くなると、仕事の途中にある分岐点が見えるようになります。「ここでAを選ぶと、遠回りになる」「ここで一度、相談が必要になる」「ここで手戻りが発生する」。そんな未来が、なんとなく見えてしまう。

だから、自分でやった方が確実だと思う。部下に任せれば3日、自分なら1日。しかも、説明する時間で自分がやった方が早い。そうやって、つい握ってしまうのです。

でも、後から振り返ると気づきます。その判断で助かったのは、「今回だけ」なんですよね。次回も、また自分がやることになる。再来年も、その次も。握り続けるかぎり、その仕事は永遠に自分のものです。

自分の手の重力|自分でやった方が早いという正しさが引力になり、握った仕事ほど手放せなくなる図
図1:「自分でやった方が早い」という正しさが、引力になる。自分の手で握った仕事ほど重く感じ、手放せなくなる。これが"自分の手の重力"。

僕はこれを、「自分の手の重力」と呼んでいます。自分の手で握った仕事ほど、重く感じて手放せなくなる引力のことです。

やっかいなのは、この重力が、観察力の高い人ほど強く働くことです。

僕はもともと、人をよく観察してしまうたちです。誰がどこで躓くか、細かく見えてしまう。だから「あの仕事をあの人に渡すと、たぶんここで止まるな」と先回りして、つい手を出す。観察力は、間違いなく武器です。でも、その武器が、ときどきブレーキになります。先回りすればするほど、相手が自分で躓いて学ぶ機会を、奪ってしまうからです。

難易度が高く、自分でも先が見えない仕事ほど、渡しにくい。これは当然です。でも、当然で終わらせると、永遠に渡せません。だから僕は、判断の基準そのものを、少しずつ部下に渡すようにしました。答えを渡すのではなく、「どう考えるか」を渡す。そうやって、渡せる領域を一つずつ増やしていく。これが、育成なのだと思います。

先が見えるから、手放せない。能力が足りないんじゃない。足りすぎているんです。

任せて、失敗させた夜

結論を言います。成長は、失敗の中にしか落ちていません。

正直に書きます。あえて部下に任せて、失敗させたことがあります。その夜、僕が思ったのは、立派なことではありません。「ああ、やっぱり自分でやれば、よかったかな」。それだけです。

でも、ここで自分が助けてしまえば、その部下は次も、同じ場所で躓きます。今回だけは成功します。けれど、チームとしては、何も育っていない。だから僕は、こう考えるようにしました。今回の失敗は、「予算」だったと。

ここで、誤解してほしくないことがあります。

「失敗の予算」と言っても、失敗を放置することではありません。これは、子育てに少し似ています。子どもが転ばないように、親がずっと手をつないでいるわけにはいきません。かといって、大怪我は困る。だから、骨折するような失敗は止める。でも、擦り傷くらいなら、経験してもらう

見分け方は、シンプルです。やり直せる失敗か。それとも、お客様や信頼に傷がつく失敗か。やり直せる範囲なら、それは投資です。取り返しがつかない範囲なら、そこは自分が前に出て止める。この線引きさえ持っておけば、怖さはずいぶん減ります。

💡 「失敗の予算」とは

  • 骨折する失敗は、止める(お客様や信頼に傷がつく=取り返しがつかない)
  • 擦り傷の失敗は、経験してもらう(やり直せる=自分で気づいて学べる)
  • 失敗は、成長のための投資と考える(やり直しのコストも、最初から予算に入れておく)

ここで、多くの人がぶつかる本音にも触れておきます。

「任せたのに、クオリティが低くて、結局やり直すことになる」。よく分かります。でも、そのやり直しのコストごと、最初から”予算”に入れておくのです。やり直しは、失敗ではなく、織り込み済みの工程です。そう思えると、任せることへの抵抗が、少し軽くなります。

「そもそも、説明する時間すらない」。これも、本当によく分かります。ただ、考えてみてください。説明する時間は、「今回だけ」のコストです。自分で握り続けるのは、「毎回」のコストです。一度きりの面倒と、永遠に続く面倒。どちらが高くつくかは、もう答えが出ています。

助ければ、今回は成功する。でもチームは、成長しない。

失敗はコストではなく、未来への投資です。ここを言葉にできてから、僕は少しずつ、手を開けるようになりました。

なお、抱え込みが長く続くと、それは静かに、燃え尽きの入り口になります。もし今、心と体が限界に近いと感じるなら、任せ方の工夫より先に、休むことを優先してください。その話は、管理職自身の燃え尽きに、別で書いています。

手放した先に、残ったもの

結論です。手放しても、価値は消えません。価値の置き場所が、「手」から「場」へ移るだけです。

若い頃の僕は、「自分が成果を出す人」でした。でも管理職になると、求められるものが変わります。「チームが成果を出す人」へ。頭では分かっていても、感覚がついてきません。自分が手を動かしていないと、「今日、自分は何もしていないな」と感じてしまう時期が、たしかにありました。

正直に言えば、今もゼロではありません。イレギュラーな案件には、つい手が出ます。完全に抜けられたわけではない。それでも、気づけば、渡せる範囲は、ずいぶん広がっていました。通常の業務は、ほとんど任せられるようになった。新しい案件も、検討の枠組みだけを作って渡す。そうやって手が空いたぶん、僕は、組織そのものの課題に時間を使えるようになりました。

ひとつ、正直な不安にも触れておきます。手を動かさなくなると、「楽をしていると見られないか」「マネジメントは、成果が見えにくいのではないか」と、怖くなります。これは、気のせいではありません。プレイヤーの成果は目に見えますが、マネージャーの成果は、チーム全体にぼんやり広がるので、見えにくい。だから不安になる。その不安ごと、引き受けるしかありません。

価値の移動|プレイヤーの価値は手にあり、マネージャーの価値は場にあることを示す図
図2:手放しても価値は消えない。置き場所が移るだけ。プレイヤーの価値は"手"にあり、マネージャーの価値は"場"にある。

プレイヤーの価値は、手にある。マネージャーの価値は、場にある。

この「何を手放すか」という話は、以前に書いた「何を磨くか」の、ちょうど裏側にあたります。磨く場所を選ぶことと、手放す場所を選ぶこと。この二つは、同じことの表と裏です。

そして、手放して空いた時間を、会社の中だけでなく、外にも向けておく。それが、長い目で見たときの備えになります。なぜ今から準備が必要なのかは「役職定年がなくなる時代へ」に、会社の外に呼吸口を持つという話は「40代管理職が、誰にも言えなかった5つの本音」に書きました。

手放した先に空いた時間で、僕は、組織そのものを見るようになりました。そして、その視線は、少しずつ、会社の外にも向き始めました。

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渡せる仕事と、渡せない仕事

結論は、とてもシンプルです。仕事は渡す。責任は渡さない

手放すと言っても、全部を投げるわけではありません。線引きがいります。僕の中では、かなり明確です。

📋 渡せる仕事と、渡せない仕事

  • 渡せる(=仕事):作業/調査/検討/資料作成
  • 渡せない(=責任):最終判断/対外責任/評価/優先順位の決定
渡せる仕事と渡せない仕事の線引き|仕事は渡す、責任は渡さないを示す図
図3:手放すには、線引きがいる。作業・調査・検討・資料作成は渡す。最終判断・対外責任・評価・優先順位の決定は、自分が握る。

ただし、ここに、ひとつ工夫を足しています。渡せない仕事も、「視点」だけは経験してもらうのです。

たとえばサブリーダーのような立場の人には、最終決裁は渡しませんが、「自分が決裁者なら、どう判断するか」を、仮に考えてもらいます。評価は渡しませんが、「評価する側の目」で一度、現場を見てもらう。

管理職は、急には生まれません。最終決裁は渡せなくても、決裁者の視点は経験してもらう。評価は渡せなくても、評価する側の目線は知ってもらう。そうやって、少しずつ、次の管理職を育てていく。これをやらないと、部下の成長は、管理職の手前で止まってしまいます。それは、チームにとっての機会損失です。決める責任そのものを渡す勇気については「最終決裁は、誰がやるのか」に詳しく書きました。

「でも、うちの部下は、まだ任せられるほど育っていない」。そう感じる人も多いはずです。ここには、鶏が先か卵が先かの問題があります。育っていないから任せられない。任せないから、育たない。この堂々めぐりを抜けるには、順番を変えるしかありません。育っていないからこそ、安全に失敗できる仕事から、先に渡す。育ってから渡すのではなく、渡すから育つ。順番は、逆なのです。

とはいえ、「丁寧に説明する時間がない」という現実もあります。だから、忙しくても回る、最小の渡し方を書いておきます。

⏱ 忙しくても回る、最小の渡し方

  • ① 一番安全に失敗できる仕事を、ひとつ選ぶ(やり直しがきく=骨折しない仕事から)
  • ② 渡すとき、1分で3つだけ伝える(ゴール/「ここだけは必ず相談して」の一点/締切)
  • ③ 途中経過は見る。でも、奪い取らない

完璧な引き継ぎ資料は、いりません。1分で渡せる3つを伝えて、あとは見守る。それで十分に回ります。昔の僕は、これができず、ぜんぶ丸投げか、ぜんぶ抱え込みの、どちらかでした。

まずは、今週ひとつだけ。手放す仕事を、選んでみてください。たったひとつでも、手が軽くなる感覚は、思っているより大きいはずです。

まとめ|管理職が、いなくても回る組織へ

最後に、少し大きな話をします。

「自分でやった方が早い」を続けると、静かに、よくない連鎖が始まります。自分でやることが偉い、と思う。だから残業が増える。家庭の時間が削られる。それを見た部下が、「出世すると、ああなるのか」と思う。そして、出世そのものを避けるようになる。

最近よく言われる「管理職の罰ゲーム化」(小林祐児『罰ゲーム化する管理職』でも語られています)の正体は、案外こういう、ひとりの抱え込みから始まっているのかもしれません。

抜け道は、シンプルです。複数いる部下に、少しずつ分担する。一人あたりの負担は、思ったほど重くなりません。そして全体としては、ちゃんと回る。だから、勇気を持って渡すのが、結局いちばん得なのです。

僕が今、目指しているのは、こういう状態です。平時であれば、管理職がいなくても回る組織。そして、有事のときだけ、管理職が前に出る組織。それが、いい組織だと思っています。

もし今、「自分は一週間、抜けられないな」と感じたなら、それはもしかすると、どこかで抱え込みが始まっているサインかもしれません。

自分の手で成果を出す人から、チームで成果を出す人へ。それが、管理職の一番難しい成長なのかもしれません。

その仕事を手放した時間で、あなたにしかできない仕事をする。その景色は、握りしめていた頃よりも、きっと少しだけ、広く見えるはずです。

— Calmly. Surely. —


関連記事|手放す前に、読んでおきたい

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