二人目の話を、僕は疑いながら聞いていた 部下同士の仲裁で、僕が最初に間違えたこと

(更新: ) 著者: ナギ
#部下同士 #仲裁 #管理職 #マネジメント #先着の正義 #1on1 #40代
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意見が食い違った部下二人の間で、それぞれの話を聞く40代の管理職

その人の話を聞きながら、僕は頷いていました。

でも、頭の中でやっていたのは、頷くこととは別のことでした。

数日前に、もう一人から聞いた話。それと、今の話。どこが食い違っているか。どちらが本当か。

つまり僕は、目の前の人の話を、先に聞いた話の答え合わせとして聞いていたわけです。

数日前、最初に来たほうは、もうこの人とは一緒に仕事を進められない、と言いました。筋の通った話でした。僕は頷きました。あのとき僕は、公平に聞いているつもりでした。

公平ではなかったのは、話の中身ではありません。順番のほうでした。

僕は両方から話を聞いた。ただ、二人目の話は、先に聞いた話の答え合わせになっていた。

自分が出ていない場所で起きた揉め事に、なぜか自分がいちばん時間と気力を取られている。

そんな管理職へ向けて書きます。この種のしんどさは、社内でも社外でも、なかなか話せません。

前回は、課の外の話を書きました。今回は課の中、それも自分が出てこない場所の話です。

📒 先に、この記事の予告を3行

  • 一対一の関係づくりだけでは、二人の間は整わない
  • 失敗は肩入れより先に、聞く順番で起きる
  • 変えられるのは気持ちより、担当と手順

二人の言い分が食い違った日、一対一だけでは足りなかった

始まりは、ある日の相談でした。

部下の一人が席に来て、もうこの人とは一緒に仕事を進められません、と言いました。

最初に来たほうの話には、強い感情がのっていました。ただ、その感情の中にも、困っていること、これまで試したこと、それでも変わらなかったことが、筋の通った形で並んでいました。だから僕には、話全体がとても確かなものに聞こえました。

僕は、二人と個別に話すことにしました。相手がいる前では言いにくいこともあります。最初から二人を同席させると、事実の確認より先に、反論の応酬が始まってしまう。だから一人ずつ聞く。この判断自体は、今でも間違いではなかったと思っています。

落とし穴は、その先にありました。

僕はそれまで、一対一の関係づくりには、それなりに手をかけてきたつもりでした。相手の「普通」を知ろうとする。タイプによって言い方を変える。一人ひとりと向き合う技術を、少しずつ積んできたつもりでした。

その全部が、二人の間では、思ったほど力になりませんでした。

一対一で積んできたものが、間違っていたわけではありません。一対一の技術は「僕とその人」の間を良くするためのものです。ただ、それだけでは「その人と、もう一人」の間までは整えられませんでした。

僕が一対一で積み上げてきた関係は、二人の間をそのまま埋めてはくれなかった。

ところで、こういう揉め事は、どこへ持ち込まれるのでしょうか。部下同士の揉め事に限った調査ではありませんが、職場の悩みが誰に持ち込まれやすいかを示す数字があります。

厚生労働省の調査では、ストレスを相談できる人がいる労働者(全体の94.6%)のうち、相談できる相手として「上司」を挙げた人は65.7%。最も多い「家族・友人」の68.6%とは、2.9ポイントの差しかありません。一方で「人事労務の担当者」は8.3%、「産業医」は5.3%でした(複数回答)。

制度のうえでは、相談窓口が別に用意されています。でも、実際に話が持ち込まれるのは、目の前の管理職のところです。だから二人は、別々に、僕のところへ来ます。

出典:厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」結果の概要・個人調査(n=8,596・複数回答・「ストレスを相談できる人がいる」労働者を100とした割合)

この時期、僕は妙に疲れていました。当事者でもない。誰かに怒られているわけでもない。それなのに、頭の中はずっとこの件に占領されている。

今なら分かります。頼まれてもいない審判を、僕が勝手に引き受けていたからです。

引き受ける量が一段増える仕事だ、という話は前に書きました。その中でも、これはかなり重いほうでした。

では、僕は何を間違えたのか。肩入れではありませんでした。順番でした。

公平のつもりで、僕は先に来た順に信じていた

先に聞いた話は、あとの話の聞き方を決めてしまう

数日後、もう一人のほうが来ました。同じ出来事の話です。ただ、まったく別の顔をしていました。

聞きながら、僕は自分が何をしているかに気づきました。

僕は二人目の話を、一人目の話が本当かどうか確かめる材料として聞いていた。

僕は、理解しようとしていませんでした。確かめようとしていました。それが、冒頭の場面です。

そして、先に書いた強い感情の話です。ただ、問題は感情そのものではありません。僕が、感情の強さを、話の確かさとして受け取ってしまったことです。

強く語られたことほど、本当らしく聞こえる。僕の聞き方に、そういう癖がありました。話し手の側に、責任はありません。感情を抜いて話してください、と言われても難しいはずです。本人にとっては、その感情も含めて、その時に起きたことだからです。

先に来た人が正しい、という規則があるわけではありません。それでも、僕の頭の中では、それに近いことが起きていました。

先に相談に来た側の話は、僕の中で先に居場所を取ります。あとから来た話は、そこへ後入れされる。同じ重さで聞いているつもりでも、片方はすでに基準の側に座っている。これを僕は「先着の正義」と呼ぶことにしました。

二人目は、話し始める前から、反論する側に立たされていた。

どちらの言い分も聞いてから決める。これは昔から、判断する側が守るべきこととされてきました。ただ僕は、聞いてはいたのです。順番が、公平ではなかっただけで。

判断の癖そのものは、前に一本にまとめて書きました。あのときは、僕一人の頭の中の話でした。今回は、それが二人の間で起きています。

世代でも、性格の相性でもありませんでした。僕が聞いた順番でした。

中央の同じ出来事を、先に話した人とあとから話した人が別の位置から見ていて、それぞれに違う景色が見えている図。下に、どちらも半分は本当、の一文
図1:先に聞いた話が基準の側に座る。これが「先着の正義」です。

二人目を聞く前に、僕は動いてしまった

ここからが、この記事でいちばん書きにくい部分です。

僕は、一人目の話を信じたまま、もう一人へ改善を求めるメールを送りました。二人目の話を、同じ条件で聞く前でした。

完全な失敗です。

そのあとで二人目の話を聞いたとき、僕はすでに「一人目の説明が正しい。二人目には改善すべき点がある」という前提に立っていました。だから、冒頭に書いたとおり、二人目の話を答え合わせとして聞いてしまったのです。

結果を書きます。二人の関係は、現在も修復できていません。

一度「この管理職は、もう一人の側に立っている」と受け取られると、そのあとに公平に接しようとしても、簡単には戻りません。僕が何を言っても、すでに結論は決まっているのだろう、と。そう見られていても、おかしくないと思っています。

聞く順番を誤ると、その後では戻せないものもある。

今なら、あのメールは送らなかったと思います。ただ、それで全部が防げたとも言い切れません。分かっているのは、僕が二人目の話を聞く前に動いてしまった、ということだけです。

ナギ(心の声)
両方から聞く、という形は守っていたんです。守っていたからこそ、公平だと思い込めてしまった。それがいちばん怖いところでした。

ナギ(心の声)

どちらが「正しい人」かを、決めない

失敗のあとで、考え方を一つ変えました。どちらが「正しい人」なのかを、決めないことにしたのです。

事実を確認しない、という意味ではありません。業務の上で何が起きたのか、何を変える必要があるのかは決めます。ただ、こちらが正しい人で、あちらが間違った人だ、という判決を急いで出さない。そう決めました。

投げやりになったのでもありません。決められない理由が、ちゃんとあったからです。

部下のノーの後ろには判断がある、という話を前に書きました。今回は、そのノーが二つありました。しかも、噛み合っていませんでした。

一人のノーの後ろには判断がある。二人のノーの後ろには、噛み合わない二つの判断がある。

一人ずつ見れば、どちらの言い分にも筋が通っている。それぞれの持ち場から見れば、それぞれが正しい。だから話が終わらないのです。

二人とも、断る理由を持っていた。正しさが二つあったから、話が終わらなかった。

どちらが正しい人かを決めた瞬間、僕の仕事はそこで止まります。勝った側と負けた側ができるだけで、仕事は一歩も進みません。

では、管理職に何ができるのか。僕の場合、動かせないものを先に認めるところから始まりました。

過去に起きたこと。相手への好き嫌い。二人が同じ見方をすること。この三つは、僕には動かせませんでした。

僕の手が届いたのは、二人の間に置く仕事の形だけでした。

担当の分け方。情報を渡す順番。二人が直接ぶつからなくても仕事が進む仕組み。

変えられないものとして過去に起きたこと・相手への好き嫌い・二人が同じ見方をすること、変えられるものとして担当の分け方・情報を渡す順番・直接ぶつからずに仕事が進む仕組みを左右に分けた図
図2:気持ちや過去には手が届かない。手が届くのは、二人の間に置く仕事の形。

どれを動かせば収まるのか。正直に書くと、決まった正解はありませんでした。人が絡む揉め事は、二つとして同じ形をしていません。だから「こうすれば収まります」という型は、僕には書けません。

ただ、探す場所だけは決めています。解決を、二人の気持ちが一致することだけに求めない。二人の間に置く仕事の形の中から探す。動かすのが担当なのか、情報を渡す順番なのか、顔を合わせる場面の数なのかは、そのたびに違います。それでも、探す場所を間違えなければ、手はどれか見つかりました。

以前の僕なら、二人を呼んで「仕事なんだから割り切ってくれ」で終わらせたかもしれません。でも、それで収まったように見えても、実際には表面から見えなくなっただけだったと思います。

仲直りは、目指しませんでした。二人が友達に戻る必要はありません。仕事が回ればいい。

冷たく聞こえるかもしれません。でも、気持ちの領域は二人のものです。管理職の僕が立ち入れるのは、仕事の形までです。

二人の話が、チームの話になったとき。そこまで視野を広げた本を、記事の最後に置いておきます。

二人目に会う前の10秒と、話を一つの場面へ戻す質問

やり方の話をします。すべてを短時間で解決することは、できません。ただ、聞く順番による傾きを減らすために、すぐできることはありました。

一人目の面談が終わったら、自分に一言

一人目の話を聞き終えた時点で、自分にこう言い聞かせます。

これは一人目から見た出来事であり、まだ結論ではない。

一人目の話を、いったん忘れる。記憶から消すという意味ではありません。二人目の話を、答え合わせに使わない、という意味です。

二人目に会う前の、10秒

二人目に会う直前にも、同じことを自分に言います。

今から聞く話は、先ほどの話の答え合わせには使わない。

そして二人目にも、一人目と同じ聞き方で聞きます。何が起きたのか。どの場面がいちばん困ったのか。仕事にどう影響したのか。聞く項目を揃えるだけで、順番の傾きはかなり減りました。

公平とは、両方の話を聞くことではなく、同じ条件で聞くことだった。

広がった話を、一つの場面へ戻す

話を聞いていると、内容は過去の別の出来事へ飛び、性格の話になり、あの時も、前からずっと、と広がっていきます。

それを切り捨てずに、場面へ戻します。

「いろいろあったことは分かりました。今回、いちばん困った場面を、一つだけ教えてください」

感情を消してもらうのではなく、感情と事実を分けて机に置く。

そうやって聞いていくと、本人も話しながら、自分が本当に困っていたのはここだったのかもしれない、と輪郭を取り戻していくことがあります。聞くことは、本人が自分の困りごとを整理する手伝いでもありました。

相手の感情が強いときほど、こちらまで一緒に波立たないこと。僕まで波立たず、凪のまま聞く。それだけで、聞こえてくるものが変わりました。

上司への報告は、解決ではなかった

この件は、僕の上司にも共有しました。関係する範囲が広かったからです。

ただ、共有したことで何かが解決したわけではありません。上司には、現場で起きている細かな関係までは見えません。結局、日常的に二人を見ている僕のところへ、話は戻ってきました。

上へ共有しても、現場を見る責任まで手放せるわけではない。

報告することと、問題を引き取ってもらうことは、別のことでした。

それでも、自分だけで抱えないと決めている場合があります。仕事が止まっているとき。二人以外の人にも影響が出ているとき。そして、自分がもう公平に扱えていないと感じたとき。この三つのどれかに当たったら、僕は上に相談します。

あと二つ、配置や評価にかかわる判断と、嫌がらせや本人の体調に影響が出ていると感じたとき。これはそもそも、僕が一人で決めていい話ではありません。そこから先は、仲裁の話ではなくなります。

最後に、やらなかったことも書いておきます。

どちらが正しいかを言うこと。片方に「悪気はないんだと思うよ」と代弁すること。その場で二人を同席させて話し合わせること。三つ目は一度やりかけて、やめました。片方が黙ってしまい、黙ったほうが「負けた側」になる気配がしたからです。

まとめ|どちらの話にも、見えていない半分があった

あの件で、僕が最後にたどり着いたのは、こういうことでした。

どちらの話も、その人から見えた範囲では本当だったのだと思います。ただ、どちらの話にも、本人からは見えていない部分がありました。

二つの話を一つの判決にまとめる必要はありません。仕事を進めるために必要な事実が見えれば、担当と手順は変えられます。

📒 持ち帰り用に、3行だけ

  • 揉め事は、肩入れより先に「先着の正義」で傾く
  • 二人目に会う前に、10秒だけ自分に言う
  • 仲直りではなく、仕事が回る形を作る

最後に、次に同じことが起きたときのために、一つだけ。

二人目の話を聞く前に、最初の10秒で、自分にこう言ってみてください。「今から聞く話は、先ほどの話の答え合わせには使わない」。

あの二人の関係は、今も戻っていません。順番を間違えた人間が、次は間違えないために書いています。

※この記事は、一人の管理職の一次体験です。登場するやり取りは、特定の個人が分からないように再構成しています。

— Calmly. Surely. —


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