「最近どう?」と聞かれて、僕は「忙しい」としか答えられなかった − "起きなかった手柄"の残し方 −
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久しぶりに会った人に、聞かれました。
「最近、仕事はどう?」
少し考えて、出てきたのはこれだけでした。
「まあ、忙しいですね」
嘘ではありません。実際に忙しくしていました。ただ、あとから考えると、忙しかったことは言えても、何をしていたのかを、ほとんど説明できませんでした。
先に書いておきます。誰かから手柄を取り返したいわけではありません。起きなかったことを、次の自分が再現できる形で残しておく。書きたいのは、その残し方です。
📒 先に、この記事の予告を3行
- 管理職になると、防いだ・止めた・整えた仕事が増える
- 起きなかったことは、自分で残さなければ消えていく
- 残した記録から、次に任せる仕事を決める
「最近どう?」に、僕は「忙しい」としか答えられなかった
「たとえば、どんなことを?」
続けてそう聞かれて、詰まりました。
会議をしていた。調整をしていた。部下から相談を受けていた。問題が起きそうな案件を見ていた。どれも間違ってはいません。でも、それだけでは、自分が一年間何をしてきたのか、自分でもよく分からないのです。
ナギ(心の声)
何もしていなかったから、説明できなかったのではありません。
起きなかった仕事を、僕は何も残していませんでした。
管理職になると、起きなかった仕事が増えていく
管理職になる前は、もう少し答えやすかったと思います。
設計をしていた頃は、自分が関わった部品や図面、解析の結果がありました。詳しい内容まで話せなくても、「こういうものを設計していました」と、形のあるものを指して説明できました。
今は、仕事の中心が、人と案件の間にあります。
止まりそうな仕事を動かす。広がりそうな問題を、小さいうちに止める。ぶつかりそうな人たちの間を、先に調整する。何かを作ったというより、そういう仕事が増えました。
設計者だった頃は、作ったものを指させました。管理職になってからは、起きなかったことを指さす必要が出てきたのです。
ところが、ここに厄介な性質があります。作った・直した・売った、といった出来事は、報告書にも議事録にも、放っておいても跡が残りやすい。一方で、防いだ・止めた・整えた仕事は、うまくいくほど、何も起きません。何も起きなかった日は、記録するものがない日として過ぎていきます。
起きたことは、記録に残りやすい。起きなかったことは、自分で残さなければ消えていく。
部下の一年は書けるのに、自分の一年が書けない
「今年のあなたの実績は?」
評価シートの、自分の欄の問いです。
部下の評価コメントは、思ったより具体的に書けました。この案件で役割を広げた。難しい調整を最後までやり切った。以前より、自分で判断できる範囲が増えた。日頃から部下の仕事を見ているので、その人の変化や成果は思い出せるのです。
部下の一年は、すらすら書けました。自分の一年だけ、一行も出てきませんでした。
思い出しやすいのは、目立ったトラブルへの対応だけです。
でも、本当は一年中、トラブル対応をしていたわけではありません。
問題になりそうなことを早めに共有した。担当が迷っている時に、判断する場所を変えた。関係者の認識のずれに気づき、こじれる前に揃えた。
そうした仕事も、問題が起きなかったために、「何も起きなかった一日」として記憶から消えていました。
以前、職務経歴書を書こうとして、同じところで詰まった話を書きました。あの時は書けないまま終わりましたが、書けなかった理由のほうが、今になって分かってきました。
部下の成果は、部下のものとして残ればいいと思っています。僕が残したいのは、次に同じ状況が起きた時、自分がもう一度仕事を動かすための材料です。忘れてしまうと、うまくいった理由を説明できないからです。
一つ、思い出せた例があります。
ある重要な日程に影響するトラブルが、起きかけたことがありました。僕がやったのは、分かっている事実を集め、影響する日程を整理し、関係先の優先順位を揃え、誰がどこまで判断するかを決めることでした。
結果として、大きな日程変更には至りませんでした。もちろん、僕一人で防いだわけではありません。僕の役割は、関係者が動けるように、事実と優先順位と、判断する場所を揃えることでした。
そして無事に終わった今、記録に残っているのは、実施された結果だけです。広がらずに済んだ問題には、途中で誰が何をしたかが残りにくい。それでいいとも思っています。問題が起きなかったのだから。
ただ、次に同じことが起きた時のために、どの段階で誰へ共有したか、何を先に決めたかは、自分の中に残しておく必要がありました。
起きなかった手柄とは、問題がなかったことではない。問題が広がる前に、誰かが動いていた仕事だ。
起きなかったことを、四半期に3行だけ残す
四半期の終わりに、手帳を開いても、この3か月に自分が何をしたのか出てこない。そういう時のために、僕は簡単な残し方を決めました。
その前に、一つだけ約束事があります。起きなかったことは、想像で大きくしようと思えば、いくらでも大きくできます。だから残すのは、事実だけにします。何が起きそうだったか。何をしたか。実際にどう収まったか。その三つです。「自分が防いだはずの未来」は、書きません。
残すのは、この3行と、最後の1行です。
広がる前に止めたこと:
こじれる前に整えたこと:
決めて動かしたこと:
次に任せること:
それぞれ、中身はこんな具合です。
広がる前に止めたこと。日程への影響を小さくした。判断が遅れそうな案件を動かした。品質の懸念を早めに共有した。
こじれる前に整えたこと。関係者の認識を揃えた。相手の事情を確認して、依頼を組み直した。誰が悪いかを決める前に、必要な事実を確認した。
決めて動かしたこと。優先順位を決めた。判断する人を決めた。期限と品質のどちらを先にするか決めた。
長文にする必要はありません。四半期に一度、この粒度で十分です。これは、困った時に「あの時、自分はどう動かしたのか」を思い出すための、自分あての申し送りです。
残した記録を、次の時間の使い方へつなげる
3行を書き続けると、副産物があります。自分が何を防いだかを残すと、自分が何に時間を使いすぎていたかも、見えてくるのです。
そこで、最後の1行「次に任せること」を使います。見るのは3つだけです。
- 同じ対応が、何度も記録されていないかを見る
- 繰り返している定常の仕事は、次に誰へ任せるかを決める
- 生まれた時間を、新しい仕事の骨子や、部門外との共創へ使う
毎回同じ確認、毎回同じ調整が記録に並んでいたら、それはもう僕の定常業務になっています。
管理職がすべての確認と調整に入り続ければ、仕事は回ります。でも、その状態が続くと、今ある仕事だけで時間が埋まり、次に何を始めるかが後ろへ送られていきます。
だから、繰り返しになっている仕事は、少しずつ部下へ任せます。それは部下にとっても、挑戦できる仕事が増えるということです。判断をどう渡すかは、前の記事に詳しく書きました。
空いた時間は、次の仕事に使います。新しいプロジェクトの骨子を考える。チームが次に担う領域を探す。部門外の人と、新しい進め方を組み立てる。半年後に必要になる役割を考えておく。
新しい仕事の骨子を考えることも、部門外との共創も、部下と一緒に進められます。ただ、その時間を確保し、最初の方向を示し、必要な相手とつなぐところは、管理職が引き受ける役割です。
管理職の仕事は、問題を起こさないことだけではない。次に何を始めるかを決めることでもある。3行の記録は、そのための入口だと思っています。
まとめ|残した3行から、次の仕事を決める
守った仕事を記録し、任せられる仕事を任せ、空いた時間で仕事の枠を広げる。3行と1行だけの記録が、その順番を作ってくれます。
📒 持ち帰るのは、この3つ
- 管理職になると、起きなかった仕事が増える
- 四半期に一度、3行+任せる1行だけ残す
- 空いた時間で、次を作る
明日からの一つだけ。今日の帰り道に、この3か月で「広がる前に止めたこと」を一つだけ、思い出してみてください。出てきたら、それがあなたの一行目です。
次に誰かへ「最近どう?」と聞かれた時、僕は「忙しいですね」の続きを、少しだけ話せるようになっていたいのです。
残しておくのは、誰かに認めてもらうためではない。来年の自分へ渡すためだ。
※この記事は、一人の管理職の一次体験です。登場するやり取りや事例は、特定の個人・案件が分からないように再構成しています。
— Calmly. Surely. —
残した3行を、社外でも通じる文章にしてみるなら
残した3行は、職務経歴書の下書きにも使えます。僕は以前、社外で自分の経験がどう読まれるかを見に行き、今の場所へ戻りました。
転職するかを決める前に、自分の仕事を説明する練習として書いてみる方法もあります。
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