手順書は渡した。それでも、仕事は止まった。 − "代われない仕事"の見つけ方 −
休暇の希望を、一枚の表に並べていました。
名前が縦に並び、横に日付が伸びています。希望が重なる時期でした。
並べているうちに、手が止まりました。この二人が同じ時期に不在になると、少し厳しいな。そう見える組み合わせが、あったからです。
どちらかに、時期をずらしてもらおうか。一瞬だけ浮かんで、すぐにやめました。休んでもらいます。そのための表です。
気になったのは、別のことでした。なぜこの二人が同時にいないと、仕事が止まりそうに見えるのか。
この記事で書くのは、配置の話です。手順書を渡して、代役も決めて、それでも仕事が止まった。あの経験から僕が変えた、引き継ぎの渡し方を書きます。
属人化がなかなか解消しない。手順書を作っても、引き継ぎがうまくいかない。その原因を、手順書の外側から考えた話です。
📒 先に、この記事の予告を3行
- 手順書を渡しても、仕事は判断の場所で止まる
- 引き継ぐのは3つ=作業手順・判断範囲・判断材料
- 完全な代役より、担当を少し重ねる
休暇希望を並べたら、仕事の寄り方が見えた
誰かが職場を長く離れることは、珍しい出来事だと思っていません。
年次の休暇のほかにも、育児休業があります。リフレッシュ休暇のような制度もあります。介護で離れる人もいます。一定の期間、誰かが不在になることは、組織として最初から想定しておくことだと思います。
だから、同じ時期に不在だと、仕事が止まりそうな組み合わせが見つかった時、「ずらしてもらえばよい」の前に、見る場所があります。
- どの仕事が、その二人へ集中しているのか
- 何の判断を、その人たちしかできないのか
- 関係先とのやり取りを、誰まで共有できているのか
- 困った時に、誰が引き取るのか
普段は、全員がいます。だから、仕事が特定の人へ寄っていても、表面上は問題なく回ります。寄っていること自体、見えません。
でも、不在の予定を一枚の表に並べた瞬間、それが見えるようになります。誰が抜けると、どこが止まるのか。仕事が実際に、誰へ寄っているのか。
休暇希望表は、いちばん正直な組織図だった。
役職と所属を並べた図には、仕事の寄り方までは書かれていません。休暇希望表には、それが出ます。
一つ、先に書いておきます。代われない仕事があることを、本人の責任だとは考えません。本人が抱え込んだというより、管理職である僕が、その人以外でも判断できる配置を作れていなかった。先に考えるべきは、そちらです。
手順書を渡しても、代役は「判断」で止まった
以前、担当者が長めに不在になる前に、引き継ぎをしたことがあります。
担当者は、手順書を渡して、「引き継ぎは終わりました」と言いました。代役になった部下も、資料を受け取り、説明を聞いて、「たぶん大丈夫です」と答えました。僕もそれで、渡ったつもりでいました。
ところが、実際に本人が不在になると、仕事は途中で止まりました。
作業のやり方は、伝わっていました。止まったのは、判断の場所です。
- このケースは、例外として扱ってよいのか
- 関係先には、どこまで話が通っているのか
- 相手のあの言葉は、確約なのか、まだ相談の段階なのか
- 品質と期限がぶつかったら、どちらを優先するのか
- どの程度の変更なら、自分で決めてよいのか
手順書には、作業の順番が書いてあります。でも、こういう問いへの答えは、書いてありません。
手順は紙に書いてあった。ここまで決めてよい、は、どこにも書いていなかった。
もう一つ、紙に残りにくいものがあります。事前にどんな調整があったのか。相手との会話の、細かいニュアンス。これまで、どんな理由でどう判断してきたのか。
代役になった側の立場で考えると、よく分かります。決めてよいと言われても、判断の材料が手元になければ、決められません。失敗したくないので、確認を待つしかない。結果として、「元の担当者にしか分からない」と止まるか、僕のところへ判断が集まってきます。
代われない仕事とは、手順書を渡しても、担当者が不在になると判断の場所で止まる仕事です。引き継ぐのは、作業手順、判断範囲、判断材料の三つです。
このうちどれか一つが欠けても、実際の場面では止まります。手順書は、三つのうちの一つを渡しているにすぎませんでした。
長い不在に備える段取りは、介護の場面でも書きました。今回は、手順を渡したあと、判断をどう引き継ぐかに絞ります。
止まった判断は、まず僕が引き取る
ここで、僕が決めていることを一つ書きます。
僕の課では、原則として、休暇中の本人へ直接連絡しないことにしています。本人が不在の時に仕事が止まったら、止まった判断は、まず僕が引き取ります。
僕も、一度そうしかけました。代役が判断できない。関係者は、元の担当者に聞きたがる。あの人へ連絡すれば、その場はいちばん早い。その考えが、頭をよぎったことがあります。
でも、それを繰り返すと、残る形があります。
- 本人は、安心して職場を離れられない
- 周囲は、判断を覚えない
- 管理職は、配置を直さない
- 次の不在の時にも、同じことが起きる
その場が早く片づく方法は、課の弱いところを、そのまま次の年へ持ち越す方法でもありました。
だから、引き取ります。分かる範囲のことは、僕が決めます。その場で決められないものは、緊急性を確認したうえで、本人が戻るまで待つ。別の関係者から情報を集める。上位の判断が要るものは、僕から相談を上げる。判断材料が足りなければ、いったん止めます。進める場合も、影響が広がりにくく、あとから修正できる範囲に留めます。
ナギ
そして、本人が戻ってきたら、振り返りを一つだけやります。なぜ、あの場面では他の人が判断できなかったのか。
不在中に何かが起きたこと自体は、責めるところがありません。見たいのは、止まった場所です。毎回、同じ場所で止まっている。それが問題です。同じ仕事で、同じ判断が止まり続けるなら、それは配置を見直す合図です。
不在中の本人へ聞かずに済む形を、普段から作っておく。それも管理職の仕事だと思っています。
ただ、僕が引き取るのは、応急処置です。目指すのは、僕が引き取る場面そのものを減らす配置です。
本人がいるうちに代役を立て、担当を少し重ねる
あの引き継ぎを振り返ると、こういうことでした。作業は引き継いだ。でも、決めるところだけが、元の担当者に残っていた。
それからやり方を変えました。代役は、いない日に立てても遅い。本人がいるうちに一度、代役に実際の仕事を動かしてもらいます。
元の担当者には、すぐ答えを教えるのを我慢して、横で見てもらいます。すると、代役から質問が出ます。
「ここは、自分で決めてよいですか」
「この情報だけで、判断できますか」
「相手との調整は、どこまで済んでいますか」
この質問が出た瞬間が、いちばんの収穫です。引き継ぎの、渡し忘れていた部分がそこにあるからです。説明を聞いた時点では、本人も代役も、渡ったつもりになっています。渡っていなかったことは、代役が実際に判断しようとして、初めて見えます。
引き継ぎは、説明した時点ではなく、代役が一度判断できた時点で終わる。
そしてもう一つ、代役を立てるより前の、普段の話があります。
担当を、完全に分けすぎないことです。「私の範囲はここまで。その先は別の人の仕事」と線を強く引くほど、線の内側にある調整のいきさつや判断の理由も、その人だけのものになっていきます。
だから、担当範囲を少しずつ重ねます。僕の課で意識しているのは、三つです。
- 主担当と副担当を置く。一つの仕事に、名前を二つ書く
- 副担当も、重要な判断がありそうな打ち合わせへ一部参加する。その場の空気と、相手の言い方を知っておく
- 本人がいる間に、副担当が一度実際に判断する。先ほどの代役の話を、行事にせず普段からやる
担当を重ねるとは、二人へ同じ作業をさせることではありません。結論に至るまでの判断材料を、隣の人にも見えるようにしておくことです。
副担当に期待するのは、四つだけです。
何を確認すべきか。
誰へ相談すべきか。
どこで止めるべきか。
過去にどんな調整があったか。
それが分かれば、仕事はかなり動かせます。
全員がすべての仕事をできる状態は、現実には遠すぎます。狙うのは、隣の人が少しずつ分かる範囲を増やすこと。それで十分です。そう考えるようになってから、引き継ぎが軽くなりました。
ちなみに、任せたあとの距離の取り方には、また別の難しさがあります。手綱の長さの話として前に書きました。今回の話は、その一歩手前の工程です。
まとめ|代われなさは、その人の値打ちでも、落ち度でもない
最後に、僕が休暇希望表を見ながら使っている確認の観点を、四つ書いておきます。
同時に不在だと止まりやすい仕事
判断が、誰に集中しているかを見る。
不在時に管理職へ連絡が集まる仕事
共有されていない調整内容や判断基準を探す。
代役が迷う場面
何を決められずに止まったかを聞く。
自分が担当している仕事
本当に管理職しか決められないか。判断材料を渡していないだけか。
四つめは、僕自身の欄です。僕の欄にも、代役を書きにくい仕事があります。僕にしかできない仕事なのか。僕にしか判断材料を渡していない仕事なのか。それを分けて見るための項目です。
📒 持ち帰るのは、この3つ
- 「代われない仕事」=手順書があっても、判断の場所で止まる仕事
- 引き継ぐのは作業手順・判断範囲・判断材料の三つ
- 代役は、本人がいるうちに一度動いてもらう
明日からの一つだけ。次に休暇の希望を集める時、提出された表を、もう一度だけ長く眺めてみてください。仕事の寄り方が見えたら、それが配置の点検の入口です。
見つかった「代われない仕事」を、その人の評価に使うつもりはありません。責める材料にも、しません。
代われないことは、その人の値打ちでも落ち度でもない。管理職である僕に残った、配置の宿題だ。
宿題は、期の変わり目の配置で、少しずつ解いていきます。
※この記事は、一人の管理職の一次体験です。登場するやり取りは、特定の個人が分からないように再構成しています。休暇中の連絡についての考え方は、僕の課での運用です。安全にかかわる緊急時の対応や、お勤め先の規程がある場合は、そちらが優先です。
— Calmly. Surely. —
関連記事
🧭 次に読むおすすめ
この記事とテーマの近い順に選んでいます