手順書は渡した。それでも、仕事は止まった。 "代われない仕事"の見つけ方

(更新: ) 著者: ナギ
#代われない仕事 #属人化 #引き継ぎ #権限委譲 #チームマネジメント #40代管理職 #マネジメント
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手順書の束と付箋を前に、引き継ぎの渡し方を考える40代の管理職

休暇の希望を、一枚の表に並べていました。

名前が縦に並び、横に日付が伸びています。希望が重なる時期でした。

並べているうちに、手が止まりました。この二人が同じ時期に不在になると、少し厳しいな。そう見える組み合わせが、あったからです。

どちらかに、時期をずらしてもらおうか。一瞬だけ浮かんで、すぐにやめました。休んでもらいます。そのための表です。

気になったのは、別のことでした。なぜこの二人が同時にいないと、仕事が止まりそうに見えるのか。

この記事で書くのは、配置の話です。手順書を渡して、代役も決めて、それでも仕事が止まった。あの経験から僕が変えた、引き継ぎの渡し方を書きます。

属人化がなかなか解消しない。手順書を作っても、引き継ぎがうまくいかない。その原因を、手順書の外側から考えた話です。

📒 先に、この記事の予告を3行

  • 手順書を渡しても、仕事は判断の場所で止まる
  • 引き継ぐのは3つ=作業手順・判断範囲・判断材料
  • 完全な代役より、担当を少し重ねる

休暇希望を並べたら、仕事の寄り方が見えた

誰かが職場を長く離れることは、珍しい出来事だと思っていません。

年次の休暇のほかにも、育児休業があります。リフレッシュ休暇のような制度もあります。介護で離れる人もいます。一定の期間、誰かが不在になることは、組織として最初から想定しておくことだと思います。

だから、同じ時期に不在だと、仕事が止まりそうな組み合わせが見つかった時、「ずらしてもらえばよい」の前に、見る場所があります。

  • どの仕事が、その二人へ集中しているのか
  • 何の判断を、その人たちしかできないのか
  • 関係先とのやり取りを、誰まで共有できているのか
  • 困った時に、誰が引き取るのか

普段は、全員がいます。だから、仕事が特定の人へ寄っていても、表面上は問題なく回ります。寄っていること自体、見えません。

でも、不在の予定を一枚の表に並べた瞬間、それが見えるようになります。誰が抜けると、どこが止まるのか。仕事が実際に、誰へ寄っているのか。

休暇希望表は、いちばん正直な組織図だった。

役職と所属を並べた図には、仕事の寄り方までは書かれていません。休暇希望表には、それが出ます。

一つ、先に書いておきます。代われない仕事があることを、本人の責任だとは考えません。本人が抱え込んだというより、管理職である僕が、その人以外でも判断できる配置を作れていなかった。先に考えるべきは、そちらです。

左に通常の休暇希望表、右に同じ表へ「この人が不在だと止まる仕事」「判断が集中している場所」の付箋を重ねた図。代われない仕事の見つけ方
図1:同じ表でも、付箋を重ねると仕事の寄り方が見えてきます。"代われない仕事"は、ここに隠れています。

手順書を渡しても、代役は「判断」で止まった

以前、担当者が長めに不在になる前に、引き継ぎをしたことがあります。

担当者は、手順書を渡して、「引き継ぎは終わりました」と言いました。代役になった部下も、資料を受け取り、説明を聞いて、「たぶん大丈夫です」と答えました。僕もそれで、渡ったつもりでいました。

ところが、実際に本人が不在になると、仕事は途中で止まりました。

作業のやり方は、伝わっていました。止まったのは、判断の場所です。

  • このケースは、例外として扱ってよいのか
  • 関係先には、どこまで話が通っているのか
  • 相手のあの言葉は、確約なのか、まだ相談の段階なのか
  • 品質と期限がぶつかったら、どちらを優先するのか
  • どの程度の変更なら、自分で決めてよいのか

手順書には、作業の順番が書いてあります。でも、こういう問いへの答えは、書いてありません。

手順は紙に書いてあった。ここまで決めてよい、は、どこにも書いていなかった。

もう一つ、紙に残りにくいものがあります。事前にどんな調整があったのか。相手との会話の、細かいニュアンス。これまで、どんな理由でどう判断してきたのか。

代役になった側の立場で考えると、よく分かります。決めてよいと言われても、判断の材料が手元になければ、決められません。失敗したくないので、確認を待つしかない。結果として、「元の担当者にしか分からない」と止まるか、僕のところへ判断が集まってきます。

代われない仕事とは、手順書を渡しても、担当者が不在になると判断の場所で止まる仕事です。引き継ぐのは、作業手順、判断範囲、判断材料の三つです。

このうちどれか一つが欠けても、実際の場面では止まります。手順書は、三つのうちの一つを渡しているにすぎませんでした。

引き継ぎで渡す3つのもの。作業手順は何をどの順番で行うか、判断範囲はどこまで自分で決めてよいか、判断材料は過去の調整・相手の意図・例外の扱い。代われない仕事をほどく三層
図2:代われない仕事をほどく鍵は、この三つを揃えて渡すことでした。

長い不在に備える段取りは、介護の場面でも書きました。今回は、手順を渡したあと、判断をどう引き継ぐかに絞ります。

止まった判断は、まず僕が引き取る

ここで、僕が決めていることを一つ書きます。

僕の課では、原則として、休暇中の本人へ直接連絡しないことにしています。本人が不在の時に仕事が止まったら、止まった判断は、まず僕が引き取ります。

僕も、一度そうしかけました。代役が判断できない。関係者は、元の担当者に聞きたがる。あの人へ連絡すれば、その場はいちばん早い。その考えが、頭をよぎったことがあります。

でも、それを繰り返すと、残る形があります。

  • 本人は、安心して職場を離れられない
  • 周囲は、判断を覚えない
  • 管理職は、配置を直さない
  • 次の不在の時にも、同じことが起きる

その場が早く片づく方法は、課の弱いところを、そのまま次の年へ持ち越す方法でもありました。

だから、引き取ります。分かる範囲のことは、僕が決めます。その場で決められないものは、緊急性を確認したうえで、本人が戻るまで待つ。別の関係者から情報を集める。上位の判断が要るものは、僕から相談を上げる。判断材料が足りなければ、いったん止めます。進める場合も、影響が広がりにくく、あとから修正できる範囲に留めます。

ナギ
これは、僕が引き取ります。戻ってから、本人に確認しましょう。

ナギ

そして、本人が戻ってきたら、振り返りを一つだけやります。なぜ、あの場面では他の人が判断できなかったのか。

不在中に何かが起きたこと自体は、責めるところがありません。見たいのは、止まった場所です。毎回、同じ場所で止まっている。それが問題です。同じ仕事で、同じ判断が止まり続けるなら、それは配置を見直す合図です。

不在中の本人へ聞かずに済む形を、普段から作っておく。それも管理職の仕事だと思っています。

ただ、僕が引き取るのは、応急処置です。目指すのは、僕が引き取る場面そのものを減らす配置です。

本人がいるうちに代役を立て、担当を少し重ねる

あの引き継ぎを振り返ると、こういうことでした。作業は引き継いだ。でも、決めるところだけが、元の担当者に残っていた。

それからやり方を変えました。代役は、いない日に立てても遅い。本人がいるうちに一度、代役に実際の仕事を動かしてもらいます。

元の担当者には、すぐ答えを教えるのを我慢して、横で見てもらいます。すると、代役から質問が出ます。

「ここは、自分で決めてよいですか」
「この情報だけで、判断できますか」
「相手との調整は、どこまで済んでいますか」

この質問が出た瞬間が、いちばんの収穫です。引き継ぎの、渡し忘れていた部分がそこにあるからです。説明を聞いた時点では、本人も代役も、渡ったつもりになっています。渡っていなかったことは、代役が実際に判断しようとして、初めて見えます。

引き継ぎは、説明した時点ではなく、代役が一度判断できた時点で終わる。

そしてもう一つ、代役を立てるより前の、普段の話があります。

担当を、完全に分けすぎないことです。「私の範囲はここまで。その先は別の人の仕事」と線を強く引くほど、線の内側にある調整のいきさつや判断の理由も、その人だけのものになっていきます。

だから、担当範囲を少しずつ重ねます。僕の課で意識しているのは、三つです。

  1. 主担当と副担当を置く。一つの仕事に、名前を二つ書く
  2. 副担当も、重要な判断がありそうな打ち合わせへ一部参加する。その場の空気と、相手の言い方を知っておく
  3. 本人がいる間に、副担当が一度実際に判断する。先ほどの代役の話を、行事にせず普段からやる

担当を重ねるとは、二人へ同じ作業をさせることではありません。結論に至るまでの判断材料を、隣の人にも見えるようにしておくことです。

副担当に期待するのは、四つだけです。

何を確認すべきか。
誰へ相談すべきか。
どこで止めるべきか。
過去にどんな調整があったか。

それが分かれば、仕事はかなり動かせます。

全員がすべての仕事をできる状態は、現実には遠すぎます。狙うのは、隣の人が少しずつ分かる範囲を増やすこと。それで十分です。そう考えるようになってから、引き継ぎが軽くなりました。

ちなみに、任せたあとの距離の取り方には、また別の難しさがあります。手綱の長さの話として前に書きました。今回の話は、その一歩手前の工程です。

まとめ|代われなさは、その人の値打ちでも、落ち度でもない

最後に、僕が休暇希望表を見ながら使っている確認の観点を、四つ書いておきます。

同時に不在だと止まりやすい仕事
判断が、誰に集中しているかを見る。

不在時に管理職へ連絡が集まる仕事
共有されていない調整内容や判断基準を探す。

代役が迷う場面
何を決められずに止まったかを聞く。

自分が担当している仕事
本当に管理職しか決められないか。判断材料を渡していないだけか。

四つめは、僕自身の欄です。僕の欄にも、代役を書きにくい仕事があります。僕にしかできない仕事なのか。僕にしか判断材料を渡していない仕事なのか。それを分けて見るための項目です。

📒 持ち帰るのは、この3つ

  • 「代われない仕事」=手順書があっても、判断の場所で止まる仕事
  • 引き継ぐのは作業手順・判断範囲・判断材料の三つ
  • 代役は、本人がいるうちに一度動いてもらう

明日からの一つだけ。次に休暇の希望を集める時、提出された表を、もう一度だけ長く眺めてみてください。仕事の寄り方が見えたら、それが配置の点検の入口です。

見つかった「代われない仕事」を、その人の評価に使うつもりはありません。責める材料にも、しません。

代われないことは、その人の値打ちでも落ち度でもない。管理職である僕に残った、配置の宿題だ。

宿題は、期の変わり目の配置で、少しずつ解いていきます。

※この記事は、一人の管理職の一次体験です。登場するやり取りは、特定の個人が分からないように再構成しています。休暇中の連絡についての考え方は、僕の課での運用です。安全にかかわる緊急時の対応や、お勤め先の規程がある場合は、そちらが優先です。

— Calmly. Surely. —


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