「AIを使った?」より、先に聞くこと。 資料には残りにくい"手つき"を、会話で見る

(更新: ) 著者: ナギ
#生成AI #AI活用 #部下育成 #資料レビュー #手つき #マネジメント #40代管理職
この記事は約 10分 で読めます
部下が作った資料を手に、作成の経緯を穏やかに尋ねる40代の管理職

部下が、資料を持ってきました。

文章は整い、誤字もほとんどありません。説明の順番も自然で、少なくとも、明確に間違っている場所は見当たりませんでした。

良くできている。まず、そう伝えました。本心です。

そのうえで僕は、完成度とは別のことを聞きたくなりました。この資料は、どうやってここまで来たのか。

先に書いておくと、僕はAIを使うことに賛成の側です。部下がAIで仕事の質と速度を上げているなら、それは良い使い方だと思っています。だからこの記事は、AIを警戒する話ではありません。

僕が見たいのは、AIを使った結果に、本人の理解と判断が伴っているかです。それは資料には残りにくいので、僕は会話で聞くことにしています。

部下がAIで作った資料を、どう見ればよいのか。同じ場所で立ち止まった課長の、実践の記録です。

📒 先に、この記事の予告を3行

  • 完璧な資料は、完璧でいい。確認するのは経緯
  • 聞くのは4つ=壁打ち・捨てた案・確かめ方・自分の判断
  • 良い使い方は、チームの技術に広げる

僕の資料も、AIで整えている

最初に、自分のことから書きます。

僕自身、文章の整理も、企画の叩き台づくりも、AIにずいぶん助けてもらっています。ゼロから唸っていた時間が短くなり、その分を考えることに回せるようになりました。

自分はこれだけ使っておいて、部下にだけ「使ったのか」と確認する。それは、どう考えてもおかしな話です。

だから、部下がAIを使いこなして良い資料を作ってきたら、まず褒めます。うまく使えているなら、それは間違いなく本人の技術です。道具を使って仕事の質が上がったのなら、喜ぶところであって、水を差すところではありません。

思い返せば、このブログを始めた頃、僕はむしろ、部下がなかなかAIを使わないことに、もどかしさを書いていました。まず叩き台をAIに出してもらえばいいのに、と。

管理職の側がAIを使えていない、という話も前に書きました。今回はその逆です。部下が、使いこなし始めたあとの話です。

ただ、褒めたあとに、僕はいつも同じことを聞きたくなります。完成度の話ではありません。

褒めたあとに、聞きたいことが残った

以前の資料には、迷った跡が残っていました。

説明の順番を、途中で変えた跡。数字の見せ方に悩んだ跡。言葉は少し足りないけれど、本人なりに伝えようとした跡。

僕はその跡を手がかりに、「ここはよく考えたね」「ここは、もう少し整理できそうだね」と話してきました。資料の粗い部分は、直す場所であると同時に、その人がどこで考えたかを教えてくれる場所でもありました。

今の資料は、整っています。それ自体は良いことです。ただ、整った紙面からは、本人がどこで考え、どこで困り、どこを自分で決めたのかが、見えにくくなりました。

間違いのない資料でした。でも、どこで迷ったのかだけが見えない。きれいに整った空白を見ているようでした。

もちろん、迷った跡を残すために、資料を粗く作ってほしいわけではありません。

完璧なら、完璧でいい。僕が確認したいのは、そこへ至るまでの経緯です。

AIに何を投げ、どこで疑い、何を直し、最後に何を自分で決めたか。AIと一緒に仕事を仕上げる過程に残る、その人の判断。僕はそれを「手つき」と呼ぶことにしました。

AIを使っても、それは残っています。ただ、提出物の側からは見えにくくなります。

では、どう聞くか。ここで聞き方を間違えると、こじれます。僕は単純に作り方を知りたいだけでも、相手には「疑われている」「楽をしたと思われている」と聞こえるかもしれません。

「AIを使った?」から入ると、次から見えなくなるのは、使った跡のほうかもしれない。

一度そう受け取られたら、次から隠れるのは、AIを使った事実の側です。そうなると、こちらはますます経緯が見えなくなります。

一つ、断っておきます。会社にAI利用のルールがあるなら、それが先です。申告や機密管理の話は、これとは別の話です。今回書くのは、そのうえで、育成のための資料レビューで何を聞くか、です。

資料に見えるものとして整った文章・正しい構成・間違いのない数字、会話で見えるものとしてどこで迷ったか・何を捨てたか・何を自分で決めたかを左右に並べた図。下に、会話の側に判断が残る、の一文
図1:同じ資料でも、見える側と見えない側があります。手つきが残るのは、会話の側でした。

AIの答えを、誰も確かめていない仕事

AIに渡すほど自分の判断が濃くなる、という話を前に書きました。あのときは、自分がAIを使う側の話でした。今回は、他の人が使った結果を、僕が引き受ける側の話です。

引き受ける側に立ってみて、初めて見えたものがあります。

一度だけの話ではありません。ここ一年で、何度か見た形です。だから、特定の誰か一人の話としては書けません。

本当にAIだけで終わらせたような資料が、たまに回ってきます。内容を、本人が十分に理解していない。質問すると、説明できない。もっともらしい言葉は並んでいるのに、実際の仕事を知っている人が読むと、どこか浮いている。正直に言えば、中身が少し嘘くさく見えました。

その時は、正直に聞きました。「これは、かなりAIに任せた?」

AIを使ったこと自体を、責めたいわけではありません。AIを使ったことではなく、AIをどう使ったかを見る。それが僕の基準です。

あの資料に足りなかったのは、AIが出した内容を、本人の知識で確かめる工程でした。

AIも、僕たちも、まだ発展途上です。AIが出したものを誰も確かめなければ、見た目だけが先に整います。

僕にも、覚えがあります。AIが出した文を、そのまま通しかけたことがあります。だからこれは、部下だけの話ではありません。

AIを使うほど、本人の知識と判断が要らなくなるのではない。むしろ、以前より必要になる。

現場への理解。事実を一度、自分で確かめる力。AIの答えを受け取って、採用するかどうかを自分で決める力。それがなければ、人がAIを使う形から、AIの答えに人が引っぱられる形へ、静かに入れ替わっていきます。

自分でAIを使う時は、出力を自分の目で確かめてから外へ出せます。部下の成果物を受け取る時は、本人が何を確かめ、何を決めたのかを、会話で聞くしかありません。

部下を追い詰めたいわけではありません。その資料に書かれた内容を、本人が自分の判断として引き受けられるか。それを確かめたいだけです。以前の僕は、こう聞きました。

「ここに書いてあることは頭に入っているのだから、何を聞かれても大丈夫だよね」

ナギ(心の声)
言ったあとで、少し強い言い方だったかもしれない、と思いました。確かめたかったのは一つだけです。この資料の中身を、この人が自分の判断として引き受けられるか。

ナギ(心の声)

今なら、「この内容を、別の角度からも説明してもらえる?」と聞きます。確かめたいことは同じでも、聞き方で、会話の温度は変わります。

では、普段のレビューで何を聞いているのか。次の4つです。

「AIを使った?」より、先に聞く4つの質問

聞きたいのは、本人が何を判断したかです。利用の有無は、その次でいい。

すべて、僕が実際に聞いてみて、部下の反応が変わった質問です。

① AIと、どんな壁打ちをした?

最初に何を考えて、AIに何を投げたのか。やり取りの跡には、本人の狙いが見えます。

丸ごと任せたのか、方向を決めてから任せたのか。それだけでも、資料の読み方が変わります。

② 採用しなかった案は、どれ?

完成した資料には、選ばれた一案しか残りません。でも、何を捨てたかには、その人の判断基準が残っています。

「AIからは別の案も出ましたが、現場には合わないと思って外しました」

こういう答えが返ってきたら、それはもう、本人の仕事です。

③ この数字や事実は、どこで確かめた?

AIがもっともらしく整えた情報を、そのまま使っていないか。抜け漏れがないことを、どう確認したのか。

これは、疑うための質問というより、どの情報を自分の責任で資料に置いたのかを確かめる質問です。

④ 最後に、自分で決めたのはどこ?

どの資料にも、必ず本人の決めどころがあります。構成か、数字の見せ方か、結論の言い切り方か。どこを自分で決めたのかを聞くと、その資料の「本人の部分」がはっきりします。

内容が本人の中へ入っているか確かめたい時は、「この内容を、別の角度から説明できる?」とも聞きます。説明できれば、内容は本人のものになっています。

資料レビューで先に聞く4つの質問。どんな壁打ちをした?、採用しなかった案は?、どこで確かめた?、別の角度から説明できる?のカードが並ぶ図
図2:先に聞くのは、この4つ。本人の判断を聞かせてもらうための質問です。

4つ全部を毎回聞くわけではありません。時間がない日は、②だけです。

この聞き方に変えてから、レビューの空気が変わりました。完成した資料を上から順に読み上げる説明が、資料に書かれていない話に変わるのです。「最初は別の構成にしていました」「この数字を使うか、最後まで迷いました」「ここだけは、自分でも確信がありません」。

そこに、その人の判断があります。

提出物だけでは、その人の判断は見えません。捨てた案を聞くと、資料からは見えなかった手つきが、会話の中に戻ってきます。

答えが出てこないことも、あります。そのときは、責めずに、その場で一緒に組み直します。埋める場にすると決めておけば、この4つは尋問になりません。部下にとっては、自分の判断を説明する時間になります。

そして、資料が良く、経緯も良ければ、きちんと褒めます。そのうえで、もう一つお願いをします。本人からチームへ、進め方をレビューしてもらうのです。今回、AIへ何を頼み、どこを自分で直し、何を確認して完成させたのか。

うまくいったAIの使い方は、チームの技術にする。

一人の成功で終わらせると、その人だけの裏技になります。進め方ごと共有すると、チームの標準になります。共有した本人にとっても、自分の仕事の進め方を認められた、という形の評価になります。

まとめ|悩みが、一つ先へ進んだ

このブログを始めた頃、リスキリングを決意した理由を書いた記事のなかで、僕は「部下がAIを十分に活用していない」というもどかしさに触れていました。まず叩き台をAIに出してもらえばいい、と。

その考えは、今も変わっていません。

ただ、実際に使われるようになって、次の悩みが見えてきました。叩き台を作る時間は短くなった。その代わり、本人がどこで考えたかは、提出物だけでは見えにくくなった。

あの頃の僕が間違っていたのではなく、課題が一つ先へ進んだのだと思っています。

使わない部下に悩んでいた僕は、今、使ったあとに何を見るかで悩んでいます。たぶん、この悩みもまた、数か月後には次の形に変わっているのでしょう。それでいいのだと思います。

手つきは、提出物には残りにくい。でも、会話には残せる。

📒 持ち帰り用に、3行だけ

  • 「手つき」=AIと仕事を仕上げる過程に残る、本人の判断
  • 「AIを使った?」より先に、壁打ち・捨てた案・確かめ方を聞く
  • 答えが出てこなかったら、責めずにその場で一緒に埋める

最後に、明日から使える一つだけ。

次に部下のAI資料を見るとき、完成度の感想のあとに、一つだけ聞いてみてください。「採用しなかった案は、どれ?」

僕もAIを使う。部下も使う。だからこそ、最後に確かめるのは、人の判断です。

※この記事は、一人の管理職の一次体験です。登場するやり取りは、特定の個人が分からないように再構成しています。

— Calmly. Surely. —


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